真空断無弾

日々の色々な事柄の忘備録的感想。戯言。

「時計じかけのオレンジ」(1971)破壊衝動の極み。

過去の名作と言う物を殆ど見ていない。好物は最後にとっておくタイプだったりするので正直やったぜと思っている。死ぬまでには色々みたいね。

 

スタンリー・キューブリック監督作品はあんまり見ていない。「博士の異常な愛情」とか「2001年宇宙の旅」とか「フルメタル・ジャケット」だとかそんくらいしか見てない。ただその作品はどれもこれもとんがっている印象は受けている。特徴的なのは異常な性格のキャラクターが結構登場するような気がする。個人に好きなのは「フルメタル・ジャケット」でハートマン軍曹とほほえみデブ。「まるでそびえ立つくそだ」とかキャッチーな名言も多くて当時の私の心に突き刺さった。というか今も突き刺さったままだ。故にその内この監督の作品を全部見てやろうと思っていたのだが何となく億劫になって先延ばしにしてきた。しかしもうそろそろ見とかないと多分死ぬまで見ないなと思い、まだ見ていない作品の中で一番見たい本作を視聴したわけなのだ。因みに原作の方の小説は読んではいない。

 

物語は主人公マルコム・マクダウェル演じるところのアレックスの一人称で語られるスタイルになっており、近未来のロンドンを舞台にその悪行の数々とその後の顛末が語られる。ディストピアな映画の137分。

 

主人公のアレックスは若きクズである。これが清々しいまでのクズなのだ。破壊衝動に抑制がかけられないタイプの人間で暴力的衝動とか性的衝動とか本能の赴くままに生きているクズだ。モーレツなクズだ。若さゆえの…的なレベルではないその悪行は次第に過激になっていき、結果的に殺人の罪でお縄になり収監されることとなる。結果は懲役14年の禁固刑だった。しかし、したたかで邪悪なアレックスは「ルドヴィコ療法」なる新しい受刑者更生プログラムを受けることによって刑期の短縮の機会を得ようとする。新療法は一種の洗脳で暴力や性的衝動を生理的に受け付けないような体質にするという荒業なのだが療法は成功しアレックスは社会復帰するのだが…みたいなお話。

 

まず最初に感じたのは分かりにくい映画であるという事。とにかくその言葉が分かりにい。これナッドサッド言葉と呼ばれる造語で本作に出てくる、というかまみれなのだがこれがもう意味不明な言葉なのだ。何の説明もなく投げっぱなし。ロシア語と英語ベースにした組み合わせのスラングらしいのだが理解不能である。話の流れで何となくこういう言葉を指すのかなぐらいの理解しか私には無理だった。がこれこそがこの作品の世界観なのかもしれぬ。世界は分けの分からんものという事を表してるのかもと思った。

 

とにかく不穏な世界である。1971年当時の人間が想像した近未来のロンドンなのだが今見てもそんなに違和感を感じない。未来と言うならば未来に見える。退廃的で耽美的な美術や小道具がいっそう不穏な世界を際立たせている。不気味だ。しかしよく考えるとこの映画の提示している閉塞感やら不穏な空気感は実は現実世界が常に抱える慢性的なものなのかもしれない。ほぼ半世紀前の作品を今見てもリアルに感じる事がその証明のような気がする。

 

しかし主人公は本当にクソのような性格をしている。1ミリも共感できない。もはや想像の範疇を超える悪党でどーしようもないのだが、それを取り巻く世界も大概だ。全体主義、管理社会の行き着く先を皮肉った挿話の数々は的確に人間世界の暗部をえぐってくる。踏み込んで内側からねじりこんで打ち込むスタイル。重い。

 

結局の所、何をしたって人間の本質は変わらないし、「目には目を、歯には歯を」の時代から変わってないし変われないじゃねーの人間。みたいなシニカルな波動を感じる傑作だと思いました。

 

 

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 作中で主人公が社会復帰後訪れた作家の家にいるマッチョの大男。ダース・ベイダーの中の人らしい…。ゴツイ。