真空断無弾

日々の色々な事柄の忘備録的感想。戯言。

「ダンケルク」(2017)仕方がない事はある。けれどその選択は間違っている。

 戦争映画が好きだ。フィクションもノンフィクションも好きだ。しかし全てOKなわけでもない。のれない映画もある。ここら辺は感覚的な問題なので説明が難しい。最近で1番乗れなかったのは「フューリー」。これはハッキリ言って糞だ。汚い言葉で申し訳ないが個人的な正直な感想なので勘弁願いたい。しかし本作「ダンケルク」はのれた。と言うか相当のれたご機嫌な作品だった。

 

本作は第二次世界大戦西部戦線ダンケルクの戦いにおけるダイナモ作戦を題材にしている。ナチスドイツの電撃戦に包囲殲滅される寸前のフランス・イギリス連合軍はベルギー国境西、フランス最北端の港町ダンケルクに追いつめられていた。その数約40万。押し寄せるドイツ軍は約80万。もはやムリゲー状態の袋のネズミであった。ダンケルクから西の対岸に見えるドーバー。それを隔てるように横たわるドーバー海峡ダンケルクからドーバー、その距離は約90キロ。対岸には故国、背後には敵。イギリス・フランスの連合軍はフランスからイギリスへの撤退を決断、海上輸送での撤退作戦を実行する…。第二次世界大戦における最大規模の撤退戦の一幕を描く106分のお話。

 

陸海空の3つの視点で同じ事象をスクラッチしながら、撤退側の英国視点でのみ描かれた作品。基本物語はなく、ただ逃げるだけ。それだけである。

 

陸のパート、ダンケルクから逃げる歩兵のパートがメイン。これが主筋。冒頭から独軍に追い立てられる。撤退中に独軍から銃撃され、ただ一人ダンケルクのビーチにたどり着いた若い歩兵のお話。もはや雌雄は決し、とにかく命からがら故国英国に帰りたいという気持ちだけの若い歩兵。完全に狩られるもののパートで、迫りくる死への恐怖が半端ない。ガンダム風に言えば「プレッシャー!」と言うシャツが半端ない。とにかく逃げたい一心であの手この手で生き延びようとする。このパートの主人公とのシンクロ率が半端なく感情移入が一番しやすい。逃走して銃撃され、ビーチで爆撃され、船に乗っては撃沈され、正しいことを言って味方に銃を突き付けられと、とにかく忙しく、生きた心地がしない。

 

 海のパート、英国からフランスへ歩兵救出に向かう民間船団のパート。民間人の親父が息子とその友を従えて一路ダンケルクへ歩兵救出に行くお話。ジョンブル魂溢れる親父のお話で理想を具現化したような英国親父像で素直にカッコイイ。不覚にも素敵だと思ってしまった。

 

空のパート、英国からフランスへ向かう船団護衛の戦闘機スピットファイアのパート。撤退する船団の護衛に出撃するスピットファイアの小隊のお話。このパートの主人公はトム・ハディー扮するパイロット。軍人的にはどうかと思うが自己犠牲を具現化したような熱いキャラで「引かぬ、媚びぬ、顧みぬ!」的なツンデレじゃないサウザー的なキャラで良かった。

 

結論から言って相当面白かった。ただ逃げるというだけの話を淡々と、その時その時の事象を見せるだけなのだが迫りくる死と言うプレッシャーの積み重ねが最後解放されたカタルシスは何ともいない良い気分だった。

 

1番心を打ちぬいたのはタイトルにも書いた「仕方がが無い事はある。けどその選択は間違っている」と言う主人公のセリフ。これは物語終盤、窮地に陥った主人公が仲間の選択に対していった言葉なのだがこれって凄く芯を食っている。これってそのものずばり戦争に対する究極の回答のような気がするし、物事の真理のような気がする。

 

ただ一つ許せなかったのは陸パートにおける主人公と行動を共にしたギブソンの件だけは納得いかなかった。出てきたシーンからこいつが何者で最終的にそういうことになるんだろうなという事は分かっていたが、そのラストはいただけない。戦争における不条理を表現する恰好の人物なんだろうけどカエル野郎は報われてほしかった…。

 

 敗戦撤退体験型アトラクション的な映画だった。海パートと空パートが無かったら本当に追い立てられるだけの焦燥感と絶望感しかない…。それはそれで見てみたいが…。

 

ぎゃふん!