いや、面白かった。
基本的にこの作者の人は、自転車でも陸上でもサッカーでも新選組でも書きたいのは人間讃歌なのだと思う。絶望的な負い目とか挫折とかの中で垣間見える刹那の慈愛とか。
本作は夢破れたサッカー少年が天文部に入り、天文部の面々との交流で癒され、癒す物語だ。この手の作品の常套句だが、無限の可能性というものがある。これは、裏返せば無限の可能性が潰えていく残酷な物語でもあるのだ。人生というのは可能性の選択肢を無くしていく旅路なのだということを、私はオネアミスの翼で知ったのだが、これも同じ話だ。まあ実感としては、年食うたびに確実に選択肢も可能性も無くなっていく。無論、個人差はあるが確実に無くなっていくのだ。では、生きてくことは無くすことだけなのか。絶望しかないのかといえば、正直、絶望しかないのだけど…。それでも生きていれば、少しは良いことがあるんじゃないのという。わずかではあるが希望があるのだ。これはそんな感じの物語ではないでしょうか。以上。