漫画『ぼくだけが知っている』感想
訃報を聞いて、何か書きたくなったので、ここに記す。
吉野朔美さんが亡くなられた。
大変ショックだ。
享年57歳。まだ若い…。
…冥福を祈る。
一時期、吉野さんの書く漫画にはまっていた時期があった。
多分、誰かに勧められたと思ったのだが、もう誰とか全然思い出せない。
ただ最初に読んだのが『僕だけが知っている』だったのは覚えている。
確か2000年前後の事だったように思う。
…まあ、どうでもいいことだが。
本作に限らない話だが、何と言うか、その何だか重い作風が気に入った。
どの作品も、人間関係のしがらみの煩わしさだとか重さがテーマだったように思うが、自分にとってはこれが新鮮で面白かった。
何より、その話に必ず、何とも言えない毒が含まれており,話のオチでそれを中和するという物語の構造自体が気に入ったのだ。
…たまに毒々しく終わるけど、そこもまたイカシた。
端正な絵柄だったり、非常に繊細な心象表現が、今まで読んできた青年、少年漫画とは違いそのギャップを面白く感じた。
なるほど、少女漫画とはこういうものかと感心して、開けなくても良い扉をこじ開けられ、それ以降、私は少女漫画も分け隔てなく読むようになった。
エポックメイキング的作家さんが吉野さんだったのだ。
…若干、白状するのが恥ずかしい。…羞恥プレイ。
んで、少女漫画の洗礼を受けることとなる。
まだ見ぬ強豪を探すために。
…少女漫画全部がそうではないとすぐ後で思い知るのだが。
ぎゃふん…。
そんなこんなで吉野さんの作風と言うか作家性に痺れてしまった私は、その作品をむさぼり読むことになってしまった。
結局最新作、period(ピリオド)以外の作品はすべて読んだし、手にも入れた。
しかし何分、本は荷物になるので、引っ越とか蔵書の処分の際、人にあげたり売ったりしたのだが本作品だけは手放す気になれなかった。
とにかく気に入っていたのだ。
内容は小学生の日常もの。
小学校4年生の夏目礼智は顔は可愛いが他は凡庸。
成績は40人中38番、運動神経もけっして良くない。
ただ意識だけは大人で自然を愛する。
彼を中心とした、性格に問題の多いクラスメートや家族との日常を描くのが本作だ。
恋愛要素がほとんどなく、まあ、あっても小4レベルの物で非常に敷居が低く読みやすかった。
しかしよくよく考えると、全然少女漫画っぽくないし子供の話でしょ、ってなもんなのだが、最初がこれで良かったんだと思う。
でなければ挫折した可能性が高い…。
自分は特別。
自らをスペシャルワンであると自覚しつつも、それが意味がないと悟る。
そんな自分自身が、実際はバカだ。
とか非常に洒落と皮肉が効いてて面白い。
少年少女時代の不穏な悩みや葛藤は結構、大人の悩みとそう変わらず、普遍的な物が多い。
そのシチュエーションが大人の世界の縮図のようにも見えて面白くし、少年少女時代特有の悩みも多く、その年代の記憶を懐かしくよみがえさせられた。
非常に魅力的で素敵な作品でした。
追記
魅力的な登場人物が多い本作。
私の1番のお気に入りは主人公のお母さん。
結婚したいくらい凄く好きです。
いじめられている主人公に、母が言ったセリフ。
死ぬ気があるなら いっそ殺しておいで
主人公が、もしも僕が死んだら泣く?との質問に母が言ったセリフ。
泣かないわよ 気を済ませたくないから
凄まじく切れ味鋭い返し!このインパクト!すこぶる素敵です!素晴らしい!👍
と、言う訳なのでその訃報を聞いても私は泣きませんが、こういった機会を機に氏の本作い限らず、その作品全てがもっと多くの人に読まれればいいなあ、と陳腐な感想を持ちました。以上。