真空断無弾

日々の色々な事柄の忘備録的感想。戯言。

「ウォッチメン」(2008)誰がヒーローを裁くのか。

それが問題だ。

 

正直それ程アメコミが好きなわけでも詳しい訳でもない。が、この作品だけは別だ。アラン・ムーアの原作が凄く好きで唯一所有しているアメコミだったりする。ゆえに期待値が大きく今まで映画版は見ずに来たのだが、ついに誘惑に負けて見てしまった…。しかし予想に反してこれはいい!これはザック・スナイダーの最高傑作なのではないか。なんで今まで見なったんだ俺のバカ!

 

事の発端は1930年代。コスプレ犯罪者の出現によりコスプレ自警集団が出没し始めた。コスプレ自警集団は徒党を組み「ミニッツメン」を名乗り政治や歴史に深く介入していく。数十年後、第二世代のコスプレ自警集団が再び集結し「ウオッチメン」を結成する。彼らはアメリカ政府の尖兵として政治、戦争で暗躍する。これによりアメリカ政府は絶大な権力を世界に対して得ることとなるのだが、反面世界情勢は不穏な空気に包まれる事となった。また、アメリカ国内でのコスプレ自警団に対する反感が強くなり、キーン条例なる、コスプレ自警団禁止法が制定され、政府に認可された者以外のスーパーヒーロー活動が禁止されてしまう。1985年、米ソの冷戦の緊張が高まる中、スーパーヒーロー、コメディアンが殺される事件が発生する。非合法にヒーロー活動を行っていたロールシャッハは事の真相を突き止めようと捜査に乗り出すのだが…みたいな163分のお話。

 

スーパーヒーローが存在する世界の歴史変革物。と言っても真の意味での超人はDr.マンハッタンしかいない。この人物はまごう事無き超人で、その昔核実験に巻き込まれ全身を分解された後、自力で肉体を再構築して復活した強者である。…突っ込んではいけない。突っ込んだら負けだ…。全ての原子を操作でき、自分の過去・未来をも予知できる神に近い超人だが、その能力ゆえに人間性を喪失しつつある。全身が青いブルーマンで自分の事にしかあまり興味がない。フォーマルな場所では服を着るが、カジュアルな場所では全裸という完全なる確信犯。全裸の青い変態である。問題である。大問題である。しかし何よりも大大問題なのは彼がアメリカ人だという事だ。時は米ソ冷戦の真っ最中であり誰もが核戦争による世界の終末を予感し恐怖している。作中でも登場する世界終末時計などその恐怖の表れだ。と言うか、世界終末時計って今でもやってることを知った。トランプ就任時で終わりまであと2分だそう。…閑話休題。とにかく微妙なパワーバランスの天秤の上に成り立っていた世界に突如として現れた青い変態は世界に終わりをもたらすきっかけとなってしまっていた。予感される米ソの核戦争からの第3次世界大戦。それは世界レベルの危機の話。しかしそれ以外のヒーローの登場も世界にの均衡を崩す兆しになっていた。悪を裁くヒーローと言えば聞こえはいいが、結局の所自称ヒーローのコスプレ集団に過ぎず、悪との区別は自称の差に過ぎない。つまる所ヒーローが悪だった場合、それは誰が裁くのか?とタイトルにつながる問題なのだ。結果、キーン条例なる方が制定され政府公認のヒーロー以外のヒーロー活動は禁止される。現実世界の1980年代に本当にヒーローが存在したならば?と言うシュミレーション作品である本作。ヒーローがいることによる弊害を問題定義しつつ、正義とは悪とは…それぞれのヒーローが信念のもとに、平和を願い行動して行き着く先に何が待っているのかを描いている。原作を知っていても最後まで目が離せない。最終的な結果は果たして本当に平和と言えるのか?全くもって興味深い作品である。

 

ザック・スナイダー作品一連にあるダークで沈鬱なムードの中、物語は淡々と進行していく。これが原作の雰囲気にマッチして最高に素敵でご機嫌な感じなのだ。昨今の作品が暗すぎると批判されがちなザックさんだがこの作品に限って言えばモロハマりである。最高だ。

 

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 好きなヒーローは完全変態Dr.マンハッタン。素敵なのは曲がったことが大嫌いロールシャッハ。共感するのは流し流されナイトオウル2代目。そんな感じか。