真空断無弾

日々の色々な事柄の忘備録的感想。戯言。

明らかに原題が本作の全て。/ボーダーライン(2015)

いい加減、原題から変更するタイトルをやめた方が良い案件。

痛切に私は感じるのだが…。

大抵原題より劣るのだから。諸兄らはどう思う?。

 

原題は「Sikario」スペイン語で殺し屋とのこと。非常にしっくりくるタイトルである。物語はメキシコの麻薬ルートの覇権をめぐる物語で凄く 面白かった。この世の地獄を、闇の世界をを1人往くベニチオ・デル・トロがかっこよすぎる案件である。その非情なアベンジャー振りが群を抜いて格好よろしいと私は思った。

彼の立ち位置は完全に闇の中である。そんな彼がエミリー・ブラントに警告する所が最高である。闇の住人であるデニトロが、黄昏に立っている彼女に引き返せと警告する所がこの物語のハイライトのであるような気がする。続編もあるので非常に楽しみである。正直、物語云々よりベニチオ・デル・トロのキャラだけでご飯何杯でもいける感じなのだが…。

 

「目の垂れた、劣化ブラピだとずっと思っててすまん…」

 

もはや平身低頭して詫びる事しか出来ない私がいる…。

ベニチオ・デル・トロ。あなたは最高の役者である。

 

…全く困ったもんである。

 

黎明期の記録…。/日本SF誕生ー空想と科学の作家たち

 

日本SF誕生―空想と科学の作家たち

日本SF誕生―空想と科学の作家たち

 

 

日本SF黎明期を生きた作家、豊田有恒氏の回顧録である。正直それ以上でも以下でも無いといった作品。面白いかどうかと聞かれれば、「その時代や日本SFの黎明期に興味があるならば…」としか言いようがない。個人的には作中に出てくる豊田氏の友人である作家連中の数々のエピソードは読んでいて楽しかった。しかしよくよく考えてみればその大半はこの世にもういないと思うと少し切ない。でも回顧録とはそういう物よな。

これはもう数少なくなってしまった日本SF黎明期に生きた作家の生き残りの回顧録である。個人的にはそれだけで価値はあったように思う。正直、私は豊田有恒氏に深い思い入れがあるわけではないが…。

ただ豊田氏の書いた日本武尊SF神話シリーズには少し思い出があった。実際のところその作品自体は読んではいないのだけど、小学生の時に日本武尊の物語にはまっていた時期がありノンノベルで出ていたそれを是非とも手に入れたかった記憶がある。結局手に入れれずに今日に至ってしまたのだが…。随分昔のことをノスタルジックに思い出してしまい本作を手に取ってしまった…。全く困ったもんである。

あの人に似ている…。/殺人の追憶(2003)

 

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かねてより作品の出来はかなり高いと方々で聞いていたのだが、なんだか尻込みして観ずにいた。と言うのもずいぶん前に韓国映画の傑作と言う前評判で「シュリ」を観たのだが私には1ミリもかすらず正直きつかった。その記憶が拭えず、前評判がどんなに良くとも韓国映画を長いこと敬遠していたのだが、どうにも気になって観てしまった。そしたらこれが想像以上に面白かったので驚いた。韓国映画、クオリティ高いな…。

食わず嫌いは損をするのを実感し感想をここに記す。

内容は韓国の未解決連続殺人事件、花城連続殺人事件を元にした戯曲の映画化であるらしい。131分の陰鬱な捜査劇である。なんとも怖い物語である。まず、その時代背景、軍事政権下という事が怖い。1980年代後半、わずか40年前までお隣さんはそんな政治体制だったという事実が怖い。で件の連続強姦殺人事件である。事件自体も怖いのだがそれを追跡する警察が怖いのだ。杜撰な組織。杜撰な捜査。そして目も当てられない行過ぎた捜査…典型的な権力の暴走である。怖い。月並みで稚拙だが怖い。法と暴力が杜撰さで結びつく負のオーバードライブ。正義なんかありゃしねぇ。報道機関も無法が過ぎる。怖え。時代といえばそれまでだが、正義とか倫理ってなんだろうと考えさせられる。そしてそのラストに至るまで、不穏な空気と場の行き詰まり感やらで、じわじわする怖さが続く。で、結局、無法の限りを尽くしても捕まえられないのがなにより怖い。暗く陰鬱で時として愚かしくてやるせない物語である。最後まで救いは無い。最後の残るのは、杜撰な警察組織に対する空しさと犯人に対する憤り、市井に未だに潜み続けている犯人への恐怖である。やはり怖い作品である。

しかし、しかしである。私は何よりソン・ガンホの相方キム・サンギョンアンジャッシュの渡部にしか見えないのが怖い!いや、より正確に言うならば上位互換機だ!!!…って別にそれはいいのだが、もう私にはどうやってもキム・サンギョンアンジャッシュ渡部にしか見ないのだ…。何をやってもアンジャッシュ渡部に見える…。きっと見返すたびに、いつすれ違いの掛け違いコントが始まるのかとどきどきしてしまうことだろう…。…うーむ、怖い…。全く困ったもんである。

 

これを観終わった直後にこの事件の犯人が特定されていたとの情報を知った。この映画が公開された当時にはもう別件で捕まっていたらしい。それが救いになるかどうかは分からないが、この映画を見終わった後の怖さの一つが消失したのだけは確かだろう…。しかし怖い。アンジャッシュ渡部。困ったもんである。

もはや、尊い/ミッション:インポッシブル フォールアウト(2018)

トム・クルーズ氏、今年57歳。この映画とってる時は、55~56歳か…。

 

 周回遅れもいい所だが、ようやく観たので感想を。

端的に言って面白かった。最高なのではないか。いや、最高だ。個人的にシリーズ最高の出来だと思った。これまでのシリーズの要素を散りばめたシリーズファンを意識した作り。最高である。2の冒頭の意味のないロッククライミングのカットとか、まさかここに生きてくるとは…。夢にも思わなんだ。爆弾の件の赤だの緑だのの話も1のガムの件を想起させるし…。自然に口元が緩んでしまうやろが。別れた嫁とか前作の悪役やらヒロインやら続投で出てくるとかIMFのいつもの面々とか…。ズルいよね。これは楽しめない訳がない。シリーズ通して観たものに対するご褒美のような作りで個人的には大満足。しかし本作の面白さは何よりも、本作主演のトム・クルーズ氏(以後、トムクル氏に略)に尽きるのではないかと思う。冒頭にも書いたがもう還暦目前の超おっさんである。で、そのアクションである。撮影中にも話題になっていたが本作のアクションで右足を骨折したとの噂は私も耳にしていた。で件のシーンを観たのだが、そりゃあ骨折するよ、っていうか何やってんのよトムクル氏。50も半ばになれば、ちょっとした事で骨も折れますよ。いくら体鍛えたって老化してんだから…。いや、でも、というか、それ故凄い。というか、凄いを通り越して最早、尊い尊いよトムクル氏。年を喰ってから加速度的にジャッキー化していくってどういうことよ?神か。神を目指しているのか?そういえば変な新興宗教にハマっていたような話を聞いたような気が…。いや、もとい、だとしても尊い。というか尊いを超越してもはや面白すぎるだろトムクル氏。いったい何処まで行くつもりなのか…見当がつかん。ぎゃふん!

勘が鋭くなくてもタイトル見ればどんな映画か大体想像つく。/Mr.&Mrs.スパイ(2016)

スパイコメディー映画。ガル・ガドットが至高!が、本作のメインは彼女ではない。 日本ではビデオスルー作品。

 郊外の住宅街に越してきた、ジョーンズ夫妻(ジョン・ハムガル・ガドット)。容姿端麗、眉目秀麗で職業も完璧。あまりにも完璧すぎて一抹の怪しさを感じたギャフニー夫妻(ザック・ガリフィアナキスアイラ・フィッシャー)は好奇心も手伝って、突っ込まなくてもいい首を突っ込んでしまいトラブルに巻き込まれてしまう105分の物語。

 

邦題のタイトルが最大のネタバレな映画である。原題はkeeping up with the Joneses。隣近所に見栄を張る的な意味で、まだ内容の検討がつかないのでいいと思うのだが…。ビデオスルー作品なので思い切ったパンチのあるタイトルをつけたパターンか。ブラピとアンジーの映画タイトルのパチもん的な感じでつけたんだろう。そしてそのタイトルから想像できるような物語が展開されていく。意外性は全くない…。正直「宇宙人ポール」の監督と「ハング・オーバー」のアラン役、ザック・ガリフィアナキス出演の作品と言うことで期待したのだが、残念ながらそうでもなかった。

ガル・ガドット出演作品と言うことでその麗しきお姿を拝めるし、眼福の極みではあるが、肝はそこじゃない。ザック・ガリフィアナキスジョン・ハムが演じる普通のおっさんと普通でないおっさんの職種を越えた友情が肝なのではないだろうか。パンチは弱いが、プチ中年危機同志の穴を補完しあう同志的な様は意外とグッときた…。

 

歳だろうか…。

 

正直可もなく不可もない作品だが、出演している俳優陣は豪華で目の保養にはなる。そんな映画だった。

知り方も千差万別。/SFのSは、ステキのS

 Sが素敵のSならば、Fはなんなんだろうと悩む。不思議か?。

SFのSは、ステキのS

SFのSは、ステキのS

 

 若い頃は小説ばかり読んでいたが、年を喰ってきて、エッセイをよく読むようになった。これは若い頃と違い、読書に時間をなかなかさけないこともあり、区切りやすく、読みやすく、読み終わりやすいためだったりする。あと年齢を重ねて角が取れて丸くなり、人の話を聞いていてもあまり腹が立たなくなってきたためだろう。そう思われる。

で、本書であるが、正直な所、タイトル買いである。私は突発的に、普段決して手に取らないような本が読みたくなる発作(衝動)に襲われることがある。まあ、たいていジャケ買いが多いのだが本書はタイトル買いである。いや、素敵なタイトルではないか。素敵なタイトルだと個人的には思っている。本書は作者の読書にまつわるエッセイ集である。作者の池澤春菜氏が作家の池澤夏樹氏の娘で声優を生業にしている、と言うことぐらいは知っている.。が、具体的に何やってるかは知らないぐらいの状態で読んだ。読了後もこの方の代表作が何なのかはよくわからなかったのだけど、調べたらレッツ&ゴー‼の人だった。本書を読んで、少なくとも私よりずっと沢山のSF本を読んでいる、ということは理解できた。あと一番印象に残った話は、飛行機がなぜ飛べるのかの件。本書ではオサレな友人とのエピソードでその件を知ったことが紹介されているが、私の場合「逆境ナイン」で知ったんだったけ…。いや。断じて恥じてはいない。むしろ、新たな知識をありがとう島本先生という感謝の念しかありません。

 

そんな感想…。なんだこの感想。

詰んでるゲームほどキツイものは無い。/NEXT ネクスト(2007)

 リセットしてやり直すの、辛い。

 

 

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ロシアで盗まれた核爆弾のアメリカでのテロ計画。テロ阻止のためにFBIが白羽の矢を立てたのはラスベガスで小銭を稼ぐしがないマジシャン、クリス(ニコラス・ケイジ)。何とクリスは超能力の持ち主で2分先の未来が予知できる能力の持ち主だった…みたいなフィリップ・K・ディック原作とは名ばかりの全く別物の96分の物語。

 

詰む。八方塞。TVゲームでもボードゲームでも何のゲームでもいいが、ゲーム終盤でそういう状態になると大抵辛い。序盤に感覚と勢いに任せて後先考えず突っ走った結果そうなることが多く最終的に断腸の思いでそっとリセット…。なんて事を想起させた作品。 概ね面白く視聴できた。特に2分先を予知できる主人公、ニコラス・ケイジのうらぶれた超能力者ぶりはかなり良い。ストーカー気質のヤバめな感じが風貌と相まってナイスな感じである。ただ一点の不満があるとすればジェシカ・ピール演じるところのヒロイン。懐に潜り込まれるまでのガードの固さは好感が持てるが、潜り込まれてからのガードの緩さは頂けない。もう少しどうにかならなかったものか。困ったものである。

未知の不可抗力。/死に山:世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

未知の不可抗力。何それ怖い。なんたるパワーワード

 

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

 

 

 極地に挑む話が好きである。単純に興味がある。が、憧れは無い。興味=やりたい事ではない。私は生まれてこの方、雪山という所に言った事が無い。これからも行く予定は無い。スノボやスキーにも行った事が無いし行きたいとも思わない。何よりも私は寒いのが嫌いである。多分私は雪山というのを体感せず、経験せずに朽ち果てていくだろう。しかし別に後悔はないし未練もない。だが、不思議と興味はあるのだ。わざわざ過酷な状況に挑む人間に。

私は謎が好きである。古今東西を問わず、不思議な現象であったり事件などに興味がある。陰惨であればあるほど良い。趣味があまりよろしくないのは自覚しているが、空想が、妄想が捻るのである。不思議で不可思議なのが良い。妄想が広がる。で、行き当たるのがこの事件である。ディアトロフ峠事件。これは1959年に当時のソ連ウラル山脈北部で起こった遭難死亡事故である。その不思議で不可思議な惨状の詳細は各々調べて欲しい。捻るから。

本書は作者であるドニー・アイカーによるディアトロフ峠事件直前までのドキュメントである。過去パートと現代パートの2段構成になっており、一応作者の考える解決編もある。しかしこれは事件の真相の決定版ではない。あくまで作者が、集めた資料、関係者の証言、状況的推論から導きだした推察である。正直これが事件の真相であるとは断言できない。ただ事件直前までの情景が非常に想像しやすく、当時の若きトレッカー達の死に至るまでの道程を丹念に追っている。故に私の妄想を捻らせるのには十分な本であった。

 

だが、しかし。本書のこのタイトル。これが本書のしょっぱなにして最大の落ちとなっていることは間違いない。

ホラート・シャフイル。マシン語で死の山。…何たる出落ち。

 

雪山怖い。

 

正しいアップデート。だがしかし…。/クリード チャンプを継ぐ男(2015)

肝心な所はアップデートされていないように感じる。

 

 ボクシングが結構好きでそれを題材にした映画もよく見る。作品は違えれど年々クオリティは上がっているように感じる。特にメインの試合にいたるまでは…。

本作も良くできている。正直な話、私はさほどこのシリーズの熱心なファンではない。第1作目は面白かったが2作目以降は惰性で見た感が凄くある。最後に見たのはスタローンが最終的に弟子とストリートファイトするやつで、それがシリーズ何作目かは記憶にない。それ以降は見てない。その程度の思い入れしかない。

そんな私でも本作は面白かった。が、しかしこの作品もメインの試合がいただけない。ボクサーのフルスイングしたパンチがクリティカルヒットしたら、いかに鍛えているボクサーでも、もれなく絶賛お陀仏だよ。全力被弾のしたらパンチドランカーどころか絶賛成仏だよ!と突っ込みたくなる試合なのだ。こういった展開も漫画だと許容できるのだが実写作品だと何故か冷めてしまう。そこまで重ねてきたドラマの現実感に対してボクシングの試合が虚構過ぎるのだ。両親を失ったものの義母の愛情を一身に受け、何不自由することなく育った主人公がそれでも満たされない何かを求めてボクサーの道を歩もうとした一つの到達点の試合がこんな大味な試合だとは…。画面映えするためには分かりやすいもの、というのは理解できるのだけど、もうそろそろシビアで刹那な試合を見たかった。正直ラストバトルに至るまでが面白かった故に少し残念だった。以上。

亡国の10番/誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡(2000)

 亡国の10番、その半生。

誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡 (集英社文庫)

誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡 (集英社文庫)

 

 面白い。面白くないわけが無い。

今は無き亡国ユーゴスラビアの10番を背負ったフットボール選手の波乱に満ちた半生を描くノンフィクション。

生まれも育ちも名古屋でフットボール観戦好きの身としてはもう読んでいて然るべきの本なのだが、発売当初から凄く売れていたし、この世から消えることは無いと思い、死ぬまでに読めればいいと放置していたら今日まで来てしまった。で、満を持して読んだのだがこれがすこぶる面白かった。そのほとんどのエピソードをもうすでに知っているにもかかわらず面白い。何よりも筆者がストイコビッチに魅せられてフットボールに、ユーゴ情勢にはまっていく様が読んでいて面白い。確かに彼はフットボール沼にはめる選手でしたよ。

超絶技巧なプレイヤーである反面、事あるごとにカードをくらうカードコレクター。常に何かに苛立つ姿が印象に残っているストイコビッチ。その現因がなんなのかが垣間見れる一冊。

TVの画面越しではあるがリアルタイムに贔屓のチームでプレーする彼の勇姿を拝めたのは今思うと幸福なことだったと心底思う今日この頃。以上。

久々に痺れた。ハビエル・バルデム。「ノーカントリー」

もともと殺し屋の話しが好きなのだがこれは凄い。噂には聞いていたが確かに凄い。ハビエル・バルデム、彼に尽きる。

 話の筋は単純である。ひょんなことから麻薬取引の金を手に入れた男、ジョシュ・ブローリンが組織に雇われた殺し屋ハビエル・バルデムに追われる話である。語り部としてトミー・リー・ジョーンズが老保安官を演じている。

シンプルなストーリーとエッジの利いたキャラ。もう最高なのではないか。ベトナム帰りの帰還兵で機会があれば危険を顧みずヤバい金に手を出すような男のくせに良心を捨てきれない男。息をするように人を殺す死神のような情け容赦ない殺し屋。時代の流れについていけない古き良き時代を体現したような老保安官。この三者が1本の筋の上で台詞や行動の伏線を回収しまくり邂逅する様はもう圧巻。コーエン兄弟いい仕事してるぅ!

冒頭でも書いたがとにかくハビエル・バルデムに尽きる。良い!イかれた殺人鬼というよりイかれた屠殺人でその仕事ぶりは狂気の沙汰でもはや死神!触れるものみな殺していく様は全篇通じて非常に怖い。ジョジョではないが常人ではできないことを平然とやってのけるハビエル・バルデムのそこに痺れる、憧れる感が凄い。

表題から醸し出す作品を通して全編に漂う皮肉。現代社会の加速する渇いた荒廃感が怖い。北斗の拳的世界が透けて見える世界の行く末。そりゃ老人はこの国では生きていけませんわ…。そんな感じがたまらん作品だった。

感性とか才能。「えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛している 新装版」

私には無い。が、別に良いと思っている。無い物ねだりで悩みたくは無い。

 

えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる 新装版

えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛してる 新装版

 

 正直なところ同意できない部分も多いし、青さが際立つ所もある。もっと言えば意識高い所が私とは別世界の住人で共感できない部分も多い。それでも表題の感覚を言葉に変換するセンスや文章にあるセンシティブな感覚は凄くキャッチーで素晴らしいと思う。感性とか才能とかあるところにはあるんだなとしみじみ感じる。ゆえに惜しいと思うし悲しく感じる。石川直樹氏方面からこの本にたどり着いたのだが、その背景とか関係なく単純に読めてよかった。そう思える作品だった。

ひと夏の経験。「グッバイ、サマー」

ミシェル・ゴンドリーの自伝的作品らしい。

 

グッバイ、サマー [Blu-ray]

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 コンプレックスまみれの少年が風変わりな友を得てひと夏の冒険に出かけて成長する。ミシェル・ゴンドリースタンド・バイ・ミー的な感じの作品である。自分の事だけで精一杯な自己中少年が友を得て世界を知り己を知るみたいな話しなのだが逆境ナインの新屋敷の「女とは追わせる者と見つけたり」と言う台詞を最後思い出してしまった。ひと夏の経験を積んで大人になるのは女だけじゃないし、性的経験だけが成長する術でも無い。ポン友とアホな事をしでかすことによって成長することもある。最後、伏線を回収する件はベタだが鮮やかでぐっと来た。ちょっと素敵な寓話だった。

 

これがツンデレというやつか…。「キツネと熊の王冠(クローネ)」

と思ったのだがより正確に記するならば本作は違うよう。デレを隠すためにツンするのが正しいらしい。 一つ学習した。

キツネと熊の王冠(クローネ) (ハルタコミックス)

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 ラブコメが苦手である。嫌いではない、苦手。非モテ人間からすると甘いご都合主義な物語と言うのがどうにもこそばゆく、正直居心地が悪い。大体がどうせ甘いご都合主義の虚構に浸かるのならば血肉沸き踊る冒険活劇やらセンスオブワンダー的な空前絶後な世界観を味わいたいと思う。私はそんな人間である。が、時折そんな苦手を打破するラブコメに出くわす。最近で言えば「かぐや様」であったり「エヴァンス」だったりする。正直かなり良い。好みである。そんな作品に共通するのは、エロに頼らず、思いのベクトルの行き違いによる心の機微の笑いで勝負しているところだったりする。断っておくがエロが嫌いな訳ではない。ただそれをそこに求めてない。それだけの話しである。で本作の話。この作品は残念ながらその系譜には連ならない。この作品には笑いがない。が、笑いが無いだけで概ね似た感じである。ドイツの若きビール職人の女性とそれを事務的に補佐する朴念仁な男の物語である。連作形式の第二巻目に当るのだがこれが良い。正直前作はピンと来なかったが本作は私の琴線に触れている。と言うか、ヒロインが個人的に好みなだけなのだが人の好みとはそういう物なので良いんではないでしょうか。とりあえず読み終わるとビールが飲みたくなる作品である。以上。

発想は凄くいい。「ピザボーイ 史上最凶のご注文」

 爆弾ベストとか作れる奴がアホって無理がない?

ゾンビランド」のルーベン・フライシャー監督作品。この人の最新作は「ヴェノム」だが私はまだ未視聴。

 父親の遺産目当ての殺人を思いついた間抜けな兄弟に巻き込まれたピザ宅配員のクライムコメディー。清清しいまでに内容が無いアホ映画だが物語の導入部は凄く良い。自分達の手を汚さずに父親暗殺計画を実行するまでの単純かつアンモラルな思考の転がりはテンポ良く鮮やかで見ていて凄く気持ち良い。しかし計画した兄弟がアホ過ぎてその先の物語が辛い。コメディだから仕方ないのかも知れないが、暗証コードが無いと脱げない爆弾ベストを作れるような人間が単なるアホだと視聴者は引くし冷める。少なくとも私は引いて冷めてしまった。出来ればもっとこちらの度肝を抜くような突き抜けたアホだったらもう少し違ったかなとか思った次第です。